着脱しやすさを素材で解決するLYCRA ADAPTIVが示す衣料の新基準
ニュースの概要
The LYCRA Companyは、米オレゴン州ポートランドで10月27日から28日に開かれるFunctional Fabric Fairに出展し、アウトドア、日常着、アクティブウェア、ワークウェア向けの次世代素材を披露すると発表した。目玉は、独自のポリマー技術を使ったLYCRA ADAPTIV繊維である。身体の動きにあわせて伸び、幅広い体型に対応し、着脱がしやすく、体にそったフィット感を保つことを狙っている。服の形やパターンを工夫するのではなく、糸そのものの性質で「着やすさ」と「サイズの許容範囲」を広げようとする点が特徴である。
引用元: The LYCRA Company、着脱しやすさとインクルーシブサイズに対応するLYCRA ADAPTIV繊維を発表(Business Wire)
分析・見解
サイズ表記の壁を、糸の性質でやわらげる発想
アパレルの悩みの一つは、サイズ展開を増やすほど在庫が膨らむことである。S、M、Lの三段階を五段階にすれば、売れ残りのリスクも単純に増える。LYCRA ADAPTIVが狙うのは、この構造への別の答えである。
同じ一着が、細身の人にも体格の大きい人にも無理なく収まるなら、サイズの刻みを減らせる。素材側で許容範囲を広げることは、デザイン側の工夫だけでは届かない領域に手を伸ばす試みだといえる。
着脱のしやすさが、実は大きな購買理由になる
今回の発表で目を引くのは、動きやすさだけでなく着脱のしやすさを前面に出した点である。従来のストレッチ素材は、着ている間の快適さを競ってきた。しかし服を着る瞬間と脱ぐ瞬間に苦労する人は多い。高齢者、肩や腕に不自由のある人、子ども、介助をする側の人などである。
身体に沿うフィット感と、脱ぎ着の楽さは、本来相反しやすい。きついほどフィットするが、きついほど着にくいからである。この矛盾を、伸びたあと元の形にきちんと戻る力で両立させようとしているのが、ポリマー技術の肝である。ファスナーやマジックテープなど付属品に頼らず、素材で解決できれば、見た目を損なわない点も強みになる。
展示会という場が示す、素材メーカーの立ち位置
Functional Fabric Fairは、完成品ではなく素材を見せる商談の場である。素材メーカーは、ブランドの企画担当者に向けて、次のシーズンの商品の核になる提案を持ち込む。LYCRAのような老舗が、アウトドアからワークウェアまで用途を広く並べるのは、一つの素材で複数の市場を押さえたいという意図の表れである。
ここで重要なのは、インクルーシブ(=誰も排除しない)という考え方が、福祉の文脈から主流の商品開発へ移りつつある点だ。かつては特別なラインとして扱われていたものが、標準仕様の一部になり始めている。
本当の競争軸は、性能の数値より説明のしやすさ
素材の優位は、伸び率や回復率のような数値で語られがちである。だが売り場で消費者に届くのは、「脱ぎ着が楽」「サイズに迷わない」という一言の分かりやすさだ。技術が優れていても、価値が伝わらなければ値段の差は正当化されない。
似た事例として、ヒートテックのような機能肌着は、素材の中身ではなく「暖かい」という体感の言葉で市場を作った。ADAPTIVのような素材も、技術用語を生活の言葉へ翻訳できるかどうかが、普及の速さを左右するだろう。
ビジネスへの影響
在庫とサイズ展開の考え方を見直す好機になる
アパレルの企画担当者は、サイズ展開の段数を減らせないかを検討する価値がある。許容範囲の広い素材を使えば、同じ型紙で複数の体型をカバーでき、欠品や余剰在庫のリスクが下がる。特にオンライン販売では、サイズ違いによる返品が利益を圧迫するため、返品率の改善は直接的な効果になる。
ただし素材の単価は上がる可能性が高い。在庫削減の効果と素材コストの上昇を、一着あたりで比べた試算が欠かせない。
高齢化市場とワークウェアに実利がある
日本は高齢者人口の割合が高く、着脱のしやすい衣料への需要は今後も増える。介護施設の職員用ユニフォームや、病院、工場、物流の現場で働く人の作業着では、動きやすさと脱ぎ着の速さが作業効率に直結する。法人向けの制服市場は、一度採用されると継続して発注が見込めるため、素材の差が長期の取引につながりやすい。
導入前に確認したい三つの点
一点目は、洗濯を繰り返したあとの回復力である。二点目は、素材の供給量と調達の安定性である。三点目は、売り場やサイトで価値を伝える言葉の用意である。まず小さなロットで試作し、着用者の声を集めてから、主力商品へ広げる進め方が現実的である。